東京高等裁判所 昭和25年(う)3929号 判決
原判決挙示の証拠に依ると、被告人は前記のように荷主である阿部敏雄と矢島幸太郎との間の白砂糖の売買を仲介し、右両者が取引の交渉中一先ず矢島幸太郎から被告人に代金として現金二十四万円を手渡したが、商談不成立に終つたことが認められるのであるから、右のような事実関係において、右売買取引が所論のように闇取引であるとしても、不調に終つたその取引の交渉中一時買主が仲買人に手渡しておいた金員が所論のように民法上不法原因に因る給付となるものとは到底解せられないのみならず、そもそも民法上不法原因に因り給付したものであつても、給付者がその物の所有権を失うことはないのであるから、給付の受領者がこれを不法に領得すれば横領罪の成立を免がれないのである。しからば、被告人等の拐帯した現金二十四万円は不法原因に因る給付であり、これについては横領罪の成立が阻却されるものと主張する所論も亦理由がないものである。
(弁護人控訴趣意)
第一点(二)
仮りに本件が商品の引渡未済に過ぎない事件ではないとしても、返還請求権の無い物に対して横領罪の成立はない。本件金二十四万円は統制品の闇取引のために給付したものであることは一点疑のない処である。被害者だという矢島が飴専門の商人であることに間違いなく、砂糖が統制品であるか、どうか位い知らぬ筈なく、之を一貫匁九百円で売るとか千百円でなければ売らぬとか云つて居たことが配給値段に依る売買でないことも百も承知の筈の証左なのである、従つて之は民法第七百八条謂う処の「不法の原因のための給付」であつて返還請求権のないものであり既に矢島が被告人に金二十四万円を交付した時に返還請求権を失つたものであり結局矢島の所有権がなくなり尠くも一時被告人に所有権が移つたものであつて之を被告人から見れば他人のものではなくなつているのである。然らば之は犯罪は別として刑法第二百五十二条規定するところの「自己の占有する他人のもの」ではなく横領罪としては犯罪構成要件を具備しないものなのである。